マルエージング鋼の疲労試験について

5M 安藤浩二

 今回の卒研で我々は、マルエージング鋼の疲労強度について研究することになった。手順としては、マルエージング鋼にコーティングを施し、その状態のまま電解研磨を行う。それを亀裂進展試験機にセットし、実験を行う。決められた時間が経過する度に試験機を止め、そのときのマルエージング鋼のき裂の長さをレプリカ法によって測る。

 

項目

1.マルエージング鋼について

    1−1:マルエージングとは?

    1−2:マルエージングに関する特許

2.レプリカ法について

    2−1:レプリカ法とは?

    2−2:レプリカの作成法

    2−3:レプリカ法に関する特許

3.き裂進展試験について

    3−1:き裂進展試験とは?

    3−2:き裂進展試験に関する特許

4.ショットピーニングについて

    4−1:ショットピーニングとは?

    4−2:ショトピーニングに関する特許

5.コーティングについて

    5−1:コーティングの作業順序

    5−2:コーティングに関する特許

6.他に疲労強度を上げる方法は?

    6−1:疲労強度向上に関する特許

 

1.マルエージング鋼について

1−1:マルエージング鋼とは?

 マルエージング鋼は、INCO社によって開発された、Niを18〜25%含有する時効硬化型の超強力鋼で、本来航空機部材、あるいはロケット、ミサイルや人工衛星などの宇宙開発用機器に使われる材料としての用途に向けられるべき特殊鋼であった。なんといっても、210kgf/mmもの耐力が得られ、かつ靱性に富み、特に切欠引張強さが著しく高いうえに、遍移温度での低感受性等、構造用鋼としてはとびきりすぐれた特徴を備えている。これを真空アーク再溶解処理によってさらに信頼度を高めれば、まさに鬼に金棒の高信頼度超強力鋼となり、従来のニッケルクロムモリブデン鋼や析出硬化型のいわゆるPHステンレス鋼なども到底およばぬすぐれた偉力を発揮することになる。

 

1−2:マルエージング鋼に関する特許

(1)

【発明の名称】疲労特性に優れたマルエージング鋼薄板およびその製造方法
【公開番号】特開2001−64755(P2001−64755A)
【発明者】
【氏名】植田 雅巳、平野 健治
【住所又は居所】大阪府吹田市南吹田2丁目19番1号 住友特殊金属株式会社吹田製作所        

・従来の技術

これまでは、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム等の合金をダイカストする金型や、鋼、アルミニウム合金の熱間鍛造または熱間押出に使用される金型の材質としては、JIS G4404にSKD61として規定される工具鋼が一般に用いられている。しかし熱間工具は、その表面で急速加熱と急速冷却が繰り返される過酷な条件下で使用され、なかでもダイカスト金型は特にその使用条件が過酷なため、SKD61ではヒートチェックと呼ばれる熱塑性歪みによる亀裂が発生しやすい。そのため材質等の面で様々な改良が試みられてはいるものの、未だ満足すべき耐ヒートチェック性が得られていないのが実情である。
 一方、熱間工具の製作コストを低減する観点から、熱間工具へのマルエージング鋼の適用が検討されている。マルエージング鋼は、溶体化処理のままでは低強度で加工しやすく、その後の時効処理で硬化させて使用することができるため、高硬度の状態で切削する必要があるSKD61より、製作コストを低減することができる。また、溶接性が良好なため、金型使用後の肉盛補修も容易とされている。しかし、特開昭62−228455号公報、特開平5−154635号公報に示されているような一般的な18%Niマルエージング鋼は、室温強度および疲労特性は優れているものの、高温強度が低いために、加熱と冷却が繰り返される熱間工具では、耐ヒートチェック性がSKD61よりも更に劣る。
 このような状況を背景として、本出願人はNiを12〜14%に制限し、合わせてTiを0.5%以上添加することにより、高温強度を高めたダイカスト金型用マルエージング鋼を、特開平6−248389号公報により提示した。ここにおける考え方は次の通りである。
 Niは靱性の高い母相組織を形成するために不可欠の元素であるが、一方で変態点を低下させ、ダイカスト金型のような使用条件下では軟化低下が小さくなって高温強度の低下を招くので、高温強度の点からはNiの制限が有効となる。一方、Tiは時効処理によってNi3 Ti,NiTiを析出し、母相中のNi量を低下させることにより、軟化抵抗を改善するので、その積極添加が高温強度の改善に有効となる。従って、Ni量の制限とTiの積極添加により、耐ヒートチェック性は著しく向上する。同様の考え方から、本出願人はNiを8%以上12%未満に制限したマルエージング鋼も、特願平6−32097号により特許出願した。

 

・解決しようとする課題

上記の技術により、ある程度の耐久性の向上が図られたが、近年、機械や構造物の使用条件が過酷になり、材料の強度特性に対する要求がますます厳しくなってきており、機械機器や構造物の長期安定性を保証するため、耐久性のより一層の向上を図るべく、優れた疲労特性を有する機械構造用マルエージング鋼の開発が要望されるに至っている。また、従来の製造方法では、真空誘導溶解後に真空アーク再溶解を行うため、特殊な真空アーク再溶解設備が必要であり、生産性も低いという問題がある。
 本発明はかかる問題に鑑みなされたものであり、優れた疲労特性を有する機械構造用マルエージング鋼、および真空アーク再溶解を行うことなく、通常の溶解設備で生産性に優れた機械構造用マルエージング鋼を製造することができる方法を提供するものである。
 1 本発明のマルエージング鋼は、化学成分が重量%で、C:0.01%以下、Ni:8〜19%、Co:8〜20%、Mo:2〜9%、Ti:0.1〜2%、Al:0.15%以下、N:0.003%以下、O:0.0015%以下を含み残部実質的にFe よりなり、非金属介在物の大きさをその周長を円周とする相当円の直径で表したとき、非金属介在物の大きさが30μm 以下とされたものである。このマルエージング鋼によると、鋼を非金属介在物が生成しにくい成分で形成したので、非金属介在物量を抑制することができる。さらに、非金属介在物の大きさを30μm 以下としたので、疲労亀裂の進展を促進する非金属介在物を除去することができ、マルエージング鋼の疲労特性を向上させることができる。
 2 また、マルエージング鋼中のTi成分偏析比およびMo成分偏析比は各々1.3以    下とするのがよい。これにより、成分偏析に起因するバンド組織の生成を抑制することができ、バンド組織の境界部が疲労破壊の起点となるのを防止することができるため、疲労特性をより向上させることができる。
 3 また、マルエージング鋼の製造方法は、鋼塊頂部の周長に相当する円周を有する相当円の直径をD1、鋼塊底部の周長に相当する円周を有する相当円の直径をD2、鋼塊高さをH、H/2位置における鋼塊の周長に相当する円周を有する相当円の直径をD、H/2位置における鋼塊の長辺長さおよび短辺長さをそれぞれW1,W2とするとき、テーパーTp=(D1−D2)×100/Hが5.0〜25.0%、高径比Rh=H/Dが1.0〜3.0、扁平比B=W1/W2が1.5以下となる鋳型を用いて、請求項1に記載した化学成分を有する鋼の溶湯を鋳造するものである。この製造方法によると、鋳造の際、大形の非金属介在物が速やかに鋼塊内部から上部へと浮上分離され、鋼塊内部には小形の非金属介在物しか残存しないようになるので、鋳造片に適宜の塑性加工を施すだけで、鋼中の非金属介在物を十分に微細化することができる。このため、真空アーク再溶解を行うことなく、疲労特性に優れたマルエージング鋼を容易に製造することができる。
 4 また、上記の製造方法により鋳造された鋳造片に塑性加工を施して非金属介在物の大きさを30μm 以下とすることで疲労特性に優れたマルエージング鋼を容易に製造することができる。
 5 また、3の製造方法により鋳造された鋳造片を鍛練比4以上で熱間鍛造し、次いで1100〜1280の温度範囲で保持するソーキング処理を1回または2回以上行い、ソーキング処理の合計時間を10〜100hrとすることで、ソーキング後の鍛造片のTi、Moの成分偏析比を1.3以下にすることができ、この鍛造片に適宜の塑性加工を施すだけで、鋼中の非金属介在物の微細化を容易に行うことができる。このため、真空アーク再溶解を行うことなく、疲労特性に優れたマルエージング鋼を容易に製造することができる。
 また、5の製造方法によりソーキングされた鍛造片に塑性加工を施して非金属介在物の大きさを30μm 以下とすることで、疲労特性に優れたマルエージング鋼を容易に製造することができる。

 

・発明の効果

以上説明したとおり、本発明のマルエージング鋼によれば、化学成分をNおよびOが規制された所定成分としたので、非金属介在物量が減少し、清浄度が向上する。また、非金属介在物の大きさを30.0μm 以下に規制したので、疲労破壊の起点となる非金属介在物の発生が抑制、防止されるため優れた疲労特性を備えたものとなる。さらに、Ti、Moの成分偏析比を各々1.3以下に規制することで、成分偏析に起因したミクロ的な強度差の発生が抑制、防止されるため、疲労特性がより一層向上したものとなる。また、本発明の製造方法によれば、通常の溶解設備を用いて、疲労特性に優れたマルエージング鋼を容易に製造することができ、生産性に優れる。


(2)

【発明の名称】靱性および高温強度に優れた熱間工具用マルエージング鋼

【公開番号】特開平9−111415
【発明者】
【氏名】瀬羅 知暁、海野 正英、岡田 康孝、平野 健治、宮原 光雄
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区北浜4丁目5番33号 住友金属工業株式会社内

・従来の技術

マルエージング鋼は、極低炭素−Niあるいは極低炭素−Ni−Coからなる靱性に富んだマルテンサイト母相に、TiあるいはMo等の金属間化合物を析出させることにより強化を図った鋼で、靱性に富み、高い強度を有する。しかも溶接性が良好で、熱処理による寸法変化が小さいなど、今までになかった種々の特長を有する。このため、宇宙開発、海洋開発、原子力利用分野、航空機関係、自動車関係等の先端的技術分野の構造部材から、圧力容器、工具、押し出し用ラム、ダイス等の多岐の分野にわたり広範な用途への適用が試みられている。
 しかしながら、マルエージング鋼はその高強度と強化機構に起因して以下のような問題をかかえている。すなわち高強度になると材料中の非金属介在物に敏感になり、その応力集中によって疲労強度が低下し、引いては耐久性が劣化する傾向がある。
 そこで、かかる問題を解決するため、真空誘導溶解法(VIM)により溶解した後、真空アーク再溶解法(VAR)により再溶解して、NやOを低減規制することにより非金属介在物清浄度を向上させ、これによって疲労破壊の起点となる非金属介在物の量を低減することで、疲労特性の改善が図られている。

・解決しようとする課題

また、Niを12〜14%あるいは8%以上12%未満に制限し且つTiを積極添加した低Ni・Ti添加型マルエージング鋼は、高温強度に優れ、ダイカスト金型に使用しても優れた耐ヒートチェック性を示す。しかし、Niを制限しているために、本質的に靱性が低く、用途によっては大割れが生じる。そのため、熱間工具としての総合性能(寿命)は未だ十分とは言えない。特開昭60−221552号公報にもNiを比較的制限しTiを積極添加したマルエージング鋼が開示されている。これは溶接材料用であるが、仮に熱間工具に使用しても同様の理由により大割れを生じ、工具寿命はSKD61と比べ必ずしも向上しない。
 本発明の目的は、高温強度および靱性を高次元で両立させた熱間工具用マルエージング鋼を提供することにある。

・課題を解決するための手段

本発明者らの調査によると、熱間工具においてヒートチェックを抑制するために必要な高温強度は、600℃での0.2%耐力で表わして70kgf/mm2 以上である。また、大割れの防止に必要な破壊靱性値は300kgf/mm3/2 である。これらに照らすと、Niを14%以下に制限し、且つTiを積極添加した低Ni・Ti添加型マルエージング鋼は、高温強度は目標レベルにあるものの、破壊靱性値は目標レベルに達しない。そこで本発明者らは高温強度を低下させることなく、靱性を改善する方法について実験研究を更に続けた。その結果、次の事実が判明した。
 高温強度を確保するためには、Ni量を制限すること、具体的には15%以下に低減することが不可欠である。一方、Tiは時効によりTiNiを析出して強度を大幅に上昇させる元素であり、一般的に室温強度が高いと高温改善も高くなるため、マルエージング鋼の室温強度および高温強度の両方に有効な元素と考えられている。そしてNiを制限した低Ni系マルエージング鋼においても、この考え方は変わっていない。ところが、本発明者らの調査によると、Niを制限した低Ni系マルエージング鋼においては、Tiが高温強度、特に600℃以上での高温強度に対し特異な挙動を示すことが判明した。18%Niの場合は、Tiは高温強度の向上に有効である。Ni量が減少すると高温強度が向上するが、Ni量が15%以下の領域では、Tiは室温強度の向上には有効なものの、高温強度の向上には殆ど寄与せず、場合によっては高温強度に悪影響を及ぼすこともある。
 この理由については現在調査中であるが、一応次のようなことを考えられる。マルエージング鋼にTiを添加すると、Ni3 TiおよびNiTiが析出し、低Ni系ではNiTiが多く析出する。NiTiはNi3 Tiより強化に対する影響が大きいが、600℃以上では固溶により消失するため、高温では強化に寄与しない。一方、高Niの場合はNi3 Tiが多く析出し、これは高温でも消失しないので、高温での強化に寄与する。つまり、強化に寄与する析出物がNi量によって変わり、その影響がTiによる強化効果に及ぶのである。
 いずれにしてもNi制限下では、高温強度の観点からはTiは不要であり、Ni量が15%以下の領域では、Ti量に関係なく600℃で70kgf/mm2の高温強度が確保される。ただし、室温強度はTiの制限に伴って低下する。
 一方、靱性に対してはNiが有効であることから、Niの制限により靱性が低下するのを避け得ない。従来のNi制限・Ti添加型マルエージング鋼の靱性が低いのもこのためである。ここでTiは従来、高温強度に有効な元素とされ、Ni制限下でもTiの積極添加が行われていたが、実際は前述した通りNi制限下ではTiは高温強度の向上には寄与せず、高温強度の点から不必要な元素である。そこで本発明者らはTiを制限した場合の靱性の変化についても調査した。その結果、Ni制限下でTiを制限すると、靱性が著しく向上し、Niの制限による靱性の低下が効果的に補われ、その結果、高温強度を低下させることなく靱性の改善が図られることが判明した。18%Niの場合はTi量に関係なく高い靱性が得られる。Ti量が1%の場合にNi量を減少させると明らかに靱性が低下する。しかし、Ti量を減少させておくと、Ni量を減少させてもそれほど靱性は低下しない。つまり、Ni制限下でTiを制限すると、高温強度が低下しない上に、靱性が著しく改善されるのである。Ni制限下でのTiの制限が靱性の向上に特に有効な理由についても調査中であるが、現時点ではTiの制限により靱性を低下させるNiTiが減少し、低Niの場合はマトリックスの靱性が低下しているので、NiTiの減少による靱性向上の効果が顕著に表われるためと考えている。
 そしてNi量が12〜15%の場合は、0.7%以下のTi制限により300kgf/mm3/2 以上の靱性値が確保され、Ni量が8%以上12%未満の場合でも、0.01%未満のTi制限により同じ靱性値が確保される。Ni量が12〜15%の場合は、0.5%未満のTi制限により特に高い靱性値が得られる。ただし、Ni量が8%未満になると、Tiを制限しても300kgf/mm3/2 以上の靱性値は確保されない。
 他方、Tiの制限は室温強度の低下を伴う。そのため、Ti量を減少させた場合は、これによる室温強度の低下を補う必要があり、これにはCoが有効である。Coは靱性をあまり低下させずに室温強度を上昇させることができる。また、高温強度の向上にも有効であり、その効果は5〜15%で比較的大きく、9.5%超で顕著である。Ni量が比較的多く高温強度が不足しがちな12〜15%の場合は、9.5%超のCo添加が効果的である。低Ni系マルエージング鋼においてCo添加量を多くすると、600℃程度でも固溶しないFe2Moの析出が促されることが、常温強度と高温強度の両方の向上に有効な理由と考えられる。
 室温強度および高温強度の改善については、に示すように、Moも有効であるので、Tiを制限した場合はMoの添加も効果的である。
 この熱間工具用マルエージング鋼は、これらの知見に基づいて開発されたもので、次の2種の成分構成を採用することにより、高温強度および靱性を高次元で両立させ、室温強度についても実用上十分なレベルを確保したものである。
 第1のマルエージング鋼は、主要元素としてNi:8%以上12%未満、Mo:2.0〜9.0%、Co:5〜15%を含み、Tiを0.1%未満に制限したものである。
 第2のマルエージング鋼は、主要元素としてNi:12〜15%、Mo:2.0〜9.0%、Co:9.5%超15%以下を含み、Tiを0.7%以下に制限したものである。
 Niが8%以上12%未満の第1マルエージング鋼は、どちらかと言えば強度重視型である。ここにおいてCo量を9.5%超にすれば、その高温強度を更に高めることができ、Tiの大幅制限による室温強度の低下も効果的に補うことができる。従って、ここにおいても9.5%超のCo添加が望ましい。
これに対し、Niが12〜15%の第2マルエージング鋼は靱性重視型である。ここにおいてTi量を0.5%未満にすれば、その靱性を更に高めることができる。従って、ここにおいても0.5%未満のTi制限が望ましい。


・発明の効果

以上に説明した通り、本発明の熱間工具用マルエージング鋼は、Niを制限した低Ni系マルエージング鋼において、適量のCoおよびMoを添加した上でTi量を減少させることにより、高温強度および靱性を高次元で両立させると共に、常温強度の低下を抑えたので、熱間工具として優れた総合性能(寿命)を示す。

2.レプリカ法について

        2−1:レプリカ法とは?

レプリカ観察の特徴は、分解能に優れた良質の像が得られると同時に構造物などの大きな物体からでも任意の位置から非破壊的に多くの写真を取ることができる。しかし、レプリカ膜が破れたり、破面の模様を完全に転写することが困難であることも少なくない。よって、レプリカの作成には、ある程度の工夫と経験が必要である。

 

       2−2:レプリカの作成

1)        アセチルセルロースフィルム(以下、フィルム)を測定すべき試料面より大きく切る。秤量ビンに酢酸メチルを入れ、それにフィルムを浸し、試料表面の端から空気泡が入らないように注意して貼り付け、数分間放置する。

 

2)       フィルムが乾燥したのち、観察面がわかりにくいので、印をつけて、ピンセットで注意深く剥がし、転写面が上になるようにして、フィルムを、両面テープを貼り付けたプレパラートに貼る。

 

3)       2)で作成したプレパラートを約250℃の箱型電気炉に入れてレプリカを伸ばす。

 

4)       3)で作成したレプリカを金メッキでコーティングして観察面を見やすくする。

 

5)       4)のレプリカを光学顕微鏡で観察して長さを測る

 

2−3:レプリカ法に関する特許

(1)

【発明の名称】欠陥の非破壊検査法
【公開番号】特開平8−160008
【発明者】
【氏名】今里 敏幸、西村 宣彦
【住所又は居所】長崎県長崎市深堀町五丁目717番1号 三菱重工業株式会社長崎研究所

・従来の技術

フェライト系鉄鋼材料よりなる各種機械部品は、長時間の使用、繰り返し荷重の負荷等により疲労損傷が生じる。例えば、火力発電プラントにおいては、近年の原子力発電プラントの伸長によって、基底負荷運用から中間負荷運用化されており、起動停止及び負荷変化が頻繁に行われるようになって、その際に生じる温度変動による熱応力の繰り返しによって、疲労損傷の蓄積が問題となっている。このような疲労損傷においては、表面にき裂が生じて、これが進展してついには破断に至るので、設備の保全管理においてはき裂を如何に早期に検出するかが問題となる。従来からフェライト系鉄鋼材料よりなる各種機械部品などに発生するき裂状の欠陥の非破壊検査方法としては、磁粉探傷法、染色浸透探傷法、超音波探傷法等が用いられている。また、これらの部品の表面の微小き裂の長さを計測する方法としては、レプリカ法が多用されている。


・発明が解決しようとする課題

磁粉探傷法、染色浸透探傷法、超音波探傷法等の非破壊検査方法は簡便な方法であるが、このうち磁粉探傷法及び染色浸透探傷法について検出感度は高いが、そのままでは微小なき裂長さの計測は困難であり、また、超音波探傷法では、定量的にき裂の検出が可能であるが、1mm以下のき裂に関しては検出感度が低かった。また、レプリカ法は微小なき裂の長さを精度よく検出できるが、検出するためには供試材の表面を鏡面になるまで研磨する必要があることから、工程に長時間を要するとともに、例えば長時間の運転により酸化や腐食を受け表面の凹凸が激しくなるなど該供試材の表面状態が悪い場合は鏡面研磨するまでに供試材表面を研磨、除去することから微小なき裂を除去してしまう可能性があった。
 本発明は前記従来技術における問題点を解消し、前記の非破壊検査方法と同等程度の簡便さで、供試材表面を特に前処理することなく、レプリカ法と同様の精度で機械部品表面に発生するき裂を検出し、その長さを定量的に評価できる方法、例えば火力発電プラントのような大型機械部品の疲労損傷等の結果生じる初期の微小なき裂を簡便に検出、評価するための方法を提供するものである。

・課題を解決するための手段

本発明は(1)供試材の調査対象箇所の表面を清浄にして強磁性材料の微粒子を分散させたコロイド液を塗布して該表面に強磁性材料の微粒子のコロイド液を均一に付着させた後、前記供試材の調査対象箇所を含む領域を磁化させ、乾燥させた後レプリカフィルム材料を溶剤に溶解した溶液を噴霧し、乾燥固化させてフィルム層を形成させ、次いで強磁性材料の微粒子と一体化したレプリカフィルムを供試材表面から剥離させ、該剥離フィルムを観察して欠陥部に集積した磁化された強磁性材料の微粒子のパターンを観察することにより供試材中の欠陥を検出、評価することを特徴とするフェライト系鉄鋼材料の表面欠陥の非破壊検査法及び(2)強磁性材料の微粒子がマグネタイトの微粒子である前記(1)のフェライト系鉄鋼材料の表面欠陥の非破壊検査法である。
 本発明は、前記従来技術の非破壊検査方法の中で表面き裂の検出感度が最も高い磁気探傷法に着目してなされたものである。磁気探傷法のうち最も一般的に用いられている磁粉探傷法では、通常磁粉に蛍光塗料を含ませておき、き裂部からの漏洩磁束に集積した磁粉から発する蛍光を目視で検出してき裂の有無を評価する。これに対して、本発明では調査対象材料(供試材)の表面に強磁性材料の微粒子をコロイド液の状態で均一に付着させておき、供試材の調査対象箇所を含む領域を磁化して、き裂部からの漏洩磁束によってき裂部付近に集積した強磁性材料の微粒子のパターンを、そのままの状態でレプリカフィルムに移し取り、顕微鏡により観察して供試材中の欠陥を検出、評価するようにしている。
 供試材表面に強磁性材料の微粒子を付着させる方法としては、強磁性材料の微粒子を分散させたコロイド液を塗布する方法が好都合である。強磁性材料の微粒子としてはマグネタイトの微粒子が好ましい。
 このようにして強磁性材料の微粒子を付着させた状態で、必要によりコロイド液を塗布しながら、電磁石などの磁化装置を用いて供試材の対象部に磁場を与えると、き裂部からの漏洩磁束によって強磁性材料が磁化され、き裂部付近に集積し、き裂の形状に応じたパターンが形成される。
 次いで表面を乾燥させた後、アセチルセルロースなどのレプリカフィルムに使用される材料を酢酸メチルなどの溶剤に溶解した溶液を噴霧し、乾燥させてレプリカフィルムを形成させる。このフィルムを剥離すれば、供試材表面に付着した強磁性材料の微粒子も前記のパターンを形成した状態でフィルム中に取り込まれて剥離する。このように してレプリカフィルムに転写された磁化パターンを顕微鏡により観察し、計測することによって供試材中の欠陥を検出し、定量的に評価することができる。

 

・発明の効果

以上、詳述したように、本発明方法によればレプリカ法よりも高い精度で、機械部品の表面に生成する微小なき裂の長さを、レプリカ法のように供試材の表面を研磨することなく検出できることから、機械部品の非破壊検査法の精度向上ならびに効率化に寄与することができる。疲労損傷は、部品の表面に微小なき裂が発生し、これが成長して破壊に至るものである。したがって、荷重の繰り返し数とき裂の大きさ(表面き裂の大きさ)とには相関性がある。本発明の方法により使用中の機械部品の疲労による微小なき裂の表面長さを測定することが可能となり、その大きさから使用中の機械部品の寿命消費率、すなわち測定時までに、破壊あるいは初期に設定したき裂長さの限界値に達するまでの寿命のどの程度を消費したかを推定することができる。例えば、火力発電プラントにおいては、疲労き裂の進展によって耐圧部の上記漏れが発生するとプラントを計画外に停止して、漏洩部分を検出するとともにその補修を行わなければならず、予定外のプラントの停止によって、計画発電量に見合う他の発電設備の起動を余儀なくされるほか、設備に余裕がない場合には、大規模な停電に至る可能性があり、本発明によって非破壊検査技術の精度が上がることによってこのような事態を避けることができる。

(2)

【発明の名称】金属材料の損傷評価方法及び装置
【公開番号】特開2001−153865(P2001−153865A)
【公開日】平成13年6月8日(2001.6.8)
【発明者】
【氏名】西村 宣彦、岩本 啓一、山内 雅文、時吉 巧、橋本 貴雄、藤田 正昭、今本 敏彦
【住所又は居所】長崎県長崎市深堀町五丁目717番1号 三菱重工業株式会社長崎研究所


・従来の技術

近年、火力発電プラントにおいては、運転時間が長時間に及ぶのに従い長時間使用による設備の劣化、頻繁な起動停止や急速な負荷変動等による熱疲労等を十分に考慮した保守管理が益々重要になってきている。例えば、高温耐圧金属部材が用いられる大口径厚肉配管では、亀裂等の傷は、多くの場合溶接部の内部で発生しているが、この傷は外表面の検査だけでは検出することができないために、この傷の早期検出及び、その寸法の正確な測定による亀裂のモニタリング手法の開発が求められている。そこで、亀裂高さを求める方法として、超音波探傷法を用いた端部エコー法が利用されてきた。
 しかしながら、この端部エコー法では、探触子の走査に伴う波形の微妙な変化から端部エコーを読み取る必要があるために、検査員の技量に負うところが多く、得られた検査結果に個人差が表れ易いという問題点があり、Silkによって開発されたTOFD法(Time of Flight Diffraction Technique)が、亀裂等の内部欠陥の検出及び定量化手法として用いられている。


・発明が解決しようとする課題

上述したTOFD法は、欠陥からの回折波を利用して探傷するために、従来の超音波探傷法と比べて欠陥の傾きの影響を受け難く、方向性のある欠陥を見落とす可能性が減少し、欠陥の検出性能が向上するという優れた点がある。しかしながら、このTOFD法では、例えば、10〜20年もの間使用した低合金鋼管を評価した場合、検出された欠陥が、金属材料の経年変化により生じたクリープ損傷によるものであるのか、製造時に既に金属材料内に生じていたものであるのかを判定することができないために、該低合金鋼管の残寿命を予測することが難しいという問題点があった。
 例えば、大口径厚肉配管として用いられる低合金鋼管の場合、クリープ損傷の進展挙動は、低合金鋼管の材料組成及び、溶接部に用いられる溶接金属の不純物含有量に依存し、特に、溶接部が周方向とされた配管の場合には、熱応力に依存することが知られている。また、亀裂は、外表面ではなく応力の多軸度の高い鋼管内部に発生することが明らかになっている。ここで、鋼管内部の亀裂が、クリープ損傷によるものであるのか、製造時に生じていたものであるのかを判定することができれば、この鋼管の残寿命を予測することが可能であると考えられるが、そのような研究報告は全くなされていないのが現状である。
 本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、金属材料の内部の傷がクリープ損傷によるものであるのか否かを判定することにより、その傷が製造後の経年変化により生じたクリープ損傷によるものであるか、製造時に生じたものであるかを判定することができ、その結果、金属材料の残寿命を予測することができる金属材料の損傷評価方法及び装置を提供することを目的とする。


・課題を解決するための手段

上記課題を解決するために、本発明は次の様な金属材料の損傷評価方法及び装置を提供する。すなわち金属材料の損傷評価方法は、金属材料内の傷を評価する方法であって、前記金属材料の表面に、超音波を発信する送信探触子と超音波を受信する受信探触子を、該金属材料内の傷を挟んで載置し、前記送信探触子により該金属材料内に超音波を発信させて前記傷からの回折波を前記受信探触子により検出し、金属材料内の傷の有無を判定することを特徴としている。
 この方法では、傷が前記金属材料内にあった場合、前記送信探触子により前記金属材料内に超音波を発信させると、該超音波は金属材料内を伝搬する間に前記傷により回折され、回折波が発生する。この回折波の有無により金属内部に傷が有るか否かが分かる。これにはいくつかの方法があるので、それを述べていこうと思う。
 

1) まず、1つ目の金属材料の損傷評価方法は、前記傷に対応する前記金属材料の表面の組織検査を行い、この組織検査の結果に基づき前記傷がクリープ損傷によるものか否かを判定することを特徴としている。
 この方法では、レプリカ法等を用いて前記傷に対応する前記金属材料の表面の組織検査を行い、前記表面におけるクリープによる損傷の有無及び金属組織の劣化の有無により、前記傷がクリープ損傷によるものか否かをより正確に判定することが可能になる。すなわち、表面の組織にクリープによる損傷が認められた場合は、前記傷はクリープ損傷による傷であると判定し、表面の組織にクリープによる損傷が認められない場合は、前記傷はクリープ損傷によらない傷(製造時の傷)であると判定することが可能になる。

 

2) 次の金属材料の損傷評価方法は、金属材料内の傷を評価する方法であって、前記金           材料のクリープ特性を推定し、該クリープ特性に基づき応力解析を行い、この応力解析に 基づき前記傷がクリープ損傷によるものか否かを判定することを特徴としている。
 この方法では、前記金属材料の表面から微量の試料を採取して化学成分分析を行い、クリープ特性と関連する不純物元素の含有量を測定し、この測定値に基づき前記金属材料のクリープ特性を推定し、該クリープ特性に基づきさらに応力解析を行なう。この応力解析では、金属材料の伸び方を表す損傷推定値が得られるので、この損傷推定値に基づき前記傷がクリープ損傷によるものか否かを判定することが可能になる。

 

3) 次の金属材料の損傷評価方法は、金属材料内の傷を評価する方法であって、前記                     金属材料の表面から試料を採取して化学分析を行い、該化学分析の結果及び、予め求められた元素含有量とクリープによる亀裂の伝播速度との関係から前記金属材料に適した亀裂伝播データを抽出し、得られた亀裂伝播データに基づき前記傷の残寿命を推定することを特徴としている。
 この方法では、前記金属材料の表面から微量の試料を採取して化学成分分析を行い、クリープ特性と関連する不純物元素の含有量を測定し、この測定値及び、予め求められた元素含有量とクリープによる亀裂の伝播速度との関係から前記金属材料に適した亀裂伝播データを抽出する。この亀裂伝播データでは、亀裂から金属材料の表面までの距離と、亀裂伝搬速度がわかり、亀裂が進行して金属材料の表面に到達するまでの時間は、距離を亀裂伝搬速度で割ることで得られるので、得られた亀裂伝播データに基づき前記傷の残寿命を推定することが可能になる。

 

4) 最後の金属材料の損傷評価方法は、金属材料内の傷を評価する方法であって、前 記                                                                                    金属材料の表面の組織検査を行い、この組織検査の結果に基づきクリープ損傷の進行度合いを推定し、この推定したクリープ損傷の進行度合い及び、予め求められたクリープ損傷 の進行度合いとクリープによる亀裂の伝播速度との関係から前記金属材料に適した亀裂 伝播データを抽出し、得られた亀裂伝播データに基づき前記傷の残寿命を推定することを 特徴としている。   

この方法では、レプリカ法等を用いて前記傷に対応する前記金属材料の表面の組織検査を行い、前記表面におけるクリープによる損傷の有無及び金属組織の劣化の有無により、クリープ損傷の進行度合い(クリープ損傷度)を推定し、この推定したクリープ損傷の進行度合い(クリープ損傷度)及び、予め求められたクリープ損傷の進行度合い(クリープ損傷度)とクリープによる亀裂の伝播速度との関係から前記金属材料に適した亀裂伝播データを抽出する。この亀裂伝播データでは、亀裂から金属材料の表面までの距離と、亀裂伝搬速度がわかり、亀裂が進行して金属材料の表面に到達するまでの時間は、距離を亀裂伝搬速度で割ることで得られるので、得られた亀裂伝播データに基づき前記傷の残寿命を推定することが可能になる。

3.亀裂進展試験について

3−1:き裂進展試験とは?

亀裂進展試験は、所定形状の亀裂発生用切欠きを設けた試験片に、引っ張り荷重からなる負荷Pを繰り返し加えて行われる。尚、上記負荷Pは、試験片の上記亀裂発生用切欠きを挟む部位に設けられた一対の孔部にピンを挿入し、アクチュエータを用いて上記ピン間に前記亀裂発生用切欠きを広げる向き(切欠きに対して垂直な方向)の引っ張り荷重を加えることにより与えられる。

 

3−2:亀裂進展試験に関する特許

【発明の名称】亀裂進展特性評価装置

【公開番号】特開平8−278241
【発明者】
【氏名】覚
【住所又は居所】東京都府中市東芝町1番地 株式会社東芝府中工場内

・従来の技術

従来、材料の亀裂進展特性を評価する装置として、油圧サーボ疲労試験機を使用するのが一般的であった。従来の油圧サーボ疲労試験機は、サーボバルブによって油圧を制御し、試験片の亀裂開口変位を制御しながら材料の亀裂進展の試験を行うものである。
 従来の油圧サーボ疲労試験機において、亀裂進展試験用試験片(以下CT試験片という)は、水槽内に配置され、一対のピンチャックによって上下に引っ張られ、支持されている。
 上側のピンチャックは、油圧シリンダに接続されている。この上側ピンチャックにはピンチャックの並進移動量を検出する変位計が接続されている。下側のピンチャックは、ロードセルを介してフレームに接続されている。
 CT試験片には水平方向の亀裂面があり、この亀裂面の開口変位を計測できるように、クリップゲージが設けられている。CT試験片の亀裂面を浸水させるため、クリップゲージは水槽の溶液に水没している。
 変位計とクリップゲージとロードセルは、それらの計測値を送れるようにサーボ増幅器に接続されている。このサーボ増幅器には、発振器が接続されている。
 油圧シリンダには、各シリンダ室の油圧を制御できるようにサーボバルブが接続されている。このサーボバルブは、油圧ポンプによって加圧された油圧タンクの油を油圧シリンダ内に送り込むように構成されている。
 上記構成の油圧サーボ疲労試験機によれば、変位計やクリップゲージやロードセルの計測値をサーボ増幅器によって増幅し、同じくサーボ増幅器によって増幅した発振器40の信号と一致するようにサーボバルブを制御する。亀裂進展試験を行う場合、クリップゲージの計測値を制御パラメータとして、油圧シリンダの油圧を制御すればよい。


・発明が解決しようとする課題

しかしながら、上記従来の油圧サーボ疲労試験機では、油圧を駆動源としているため装置自体が大がかりになり、コストが高騰する問題があった。
 また、1台の油圧サーボ疲労試験機は、1つの亀裂進展試験のみを行えるので、複数の条件下で亀裂進展の試験を行うには、複数の油圧サーボ疲労試験機を設置しなければならなかった。この場合は、コストの高騰がさらに著しくなった。
 また、上記従来の油圧サーボ疲労試験機では、CT試験片を垂直方向に上下に引っ張る構成であるので、クリップゲージを水槽内の溶液に浸漬した状態で試験を行わなければならなかった。しかし、水槽の溶液は酸性やアルカリ性を有していることが多いので、クリップゲージの防水構造が劣化し、クリップゲージ内に溶液が進入し、電気の短絡や制御系の暴走を生じるおそれがあった。
 また、亀裂進展特性に及ぼす温度や湿度等の影響を調べるには、試験片やクリップゲージを恒温環境下におくことが望ましいが、従来の油圧サーボ疲労試験機は、装置本体が大型であるため、既存の恒温装置内に試験機を配置することができなかった。
さらに、最近の亀裂進展特性評価試験は、応力拡大係数(K値)等を制御パラメータとして、特定の波形の引張荷重を負荷する等複雑な制御を必要とすることが多い。これに対して、従来の油圧サーボ疲労試験機は、このような複雑な制御に対して容易に対応できない問題があった。
 そこで、本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、小型かつ廉価な亀裂進展特性評価装置を提供することにある。
 また、本発明の他の目的は、多様な負荷条件下の亀裂進展特性評価試験を容易に行うことができる亀裂進展特性評価装置を提供することにある。
 本発明のさらに他の目的は、クリップゲージへの浸水を防止し、電気の短絡や制御系の暴走を防止できる亀裂進展特性評価装置を提供することにある。

・課題を解決するための手段

上記目的を達成するために、本発明による亀裂進展特性評価装置は以下の構成を有している。
 今回の亀裂進展特性評価装置は、試験片の亀裂面に垂直な方向に引張力を作用させる引張機構と、前記引張機構を駆動する駆動モータと、前記引張機構による引張荷重を計測する荷重計測手段と、前記試験片の開口変位を計測する開口変位計測手段とを有する計測手段と、前記試験片の開口変位が目標値となるように前記引張機構および駆動モータに対してフィードバック制御を行う制御手段と、前記制御手段に対して前記開口変位の目標値を指定し、前記荷重計測手段と前記開口変位計測手段の各計測値を経時的に集録する計算手段と、からなることを特徴とするものである。
 また、亀裂進展特性評価装置は上記の亀裂進展特性評価装置において、前記試験片に対して水平方向に引張力が作用するように前記引張機構を設置し、前記開口変位計測手段の本体を液面上に出した状態で前記試験片の亀裂面を浸水させる水槽と、を備えたことを特徴とするものである。また、前記水槽の溶液の温度を一定に維持する恒温装置を備えたことを特徴とするものである。
 この場合の計算手段は、試験片の亀裂の長さを計算し、この長さより設定された所定の応力拡大係数になる亀裂の開口変異量を計算する手段と、前記開口変異量を前記制御手段に出力し、前記目標値として設定する手段と、を備えていることを特徴とするものである。

・発明の効果

上記説明から明らかなように、本発明の亀裂進展特性評価装置によれば、制御手段と計算手段とによって計測手段のサーボモータをフィードバック制御してので、従来の油圧サーボ型試験機に比べて構成を大幅に簡略化・小型化することができる。
 また、計算手段によってフィードバック制御を行うので、亀裂開口変位が一定の場合に限られず、亀裂開口変位を経時的に変化させ、引張荷重やモータ回転量を制御パラメータとすることができるので、多様な亀裂進展特性の評価を行うことができる。
 また、計測手段と制御手段と計算手段とを分離可能のユニットとしているので、計測手段自体は小型化し、既存の恒温槽内に計測手段を設置することが可能となり、これによって、各種の温度、湿度の条件下で試験をすることができる。
 さらに、一台の計算手段4によって複数台の計測手段や制御手段を制御可能であるので、装置全体としてのコストの低減を図ることができる。また、この場合は、複数の条件で平行して亀裂進展特性の試験を行うことができるので、試験のための時間の短縮を図ることができる。
 また、恒温水槽を備えた亀裂進展特性評価装置では、所定の温度環境下における亀裂進展の試験を容易に行うことができる。
 最後に、本発明の亀裂進展特性評価装置によれば、CT試験片に対して引張力を水平に作用させ、開口変位計測手段を水槽の液面上に出し、CT試験片の亀裂面にのみ溶液を浸水させた状態で試験を行うことができるので、開口変位計測手段への浸水による短絡、制御系の暴走を防止し、信頼性が高い亀裂進展の試験を行うことができる。

 

4.ショットピーニングについて

4−1:ショットピーニングとは?

直径0.4〜1.2mm程度の硬貨金属粒を遠心力または圧縮空気によって部材表面に高速でたたきつけて加工硬化する方法である。ばねのような切欠感度の大きい高強度材で、熱処理後の表面仕上げが作業工程上あるいは経済的に困難な部材に対しては、表面欠陥や表面脱炭などの悪影響を除き疲れ強さを向上する上で有効である。そのため、自動車や車両の重ね板ばねやコイルばねの製造工程には不可欠の作業である。

 

4−2:ショットピーニングに関する特許

【発明の名称】ショットピーニング方法及び装置
【公開番号】特開2001−277119(P2001−277119A)
【発明者】
【氏名】山方 三郎、村上 博充、植村 定佳
【住所又は居所】埼玉県富士見市みずほ台3丁目6−1−302

・従来の技術

このショットピーニング方法においては、近年、疲労強度を向上させるために、例えば特開平6−145785号公報に記載されているように、一次ショットピーニングで比較的粒径の大きいショット粒を用いて鋼材表面に圧縮残量応力層の深さを増し、次の二次ショットピーニングで比較的粒径の小さなショット粒を使用して最表面の圧縮残留応力を高めることにより、強度上最適な残留応力分布状態を得るようにした所謂2段ショットピーニング法が用いられている。
 このような2段ショットピーニング法では、異なる粒径の2種類のショット粒を使用して、2回のショットピーニング処理を行う必要があるため、例えば特開平7−171766号公報に記載されているような、投射ノズルから被処理面に投射した投射材を回収用のフードにより回収して、これに接続された回収ホースを経て分離タンクへ送給して、投射材とダストとを分離し、投射材を加圧タンクと投射ホースを経て投射ノズルに送給することにより、投射材を循環使用するようにし、回収ホースから分離タンクへの送給を、回収ホースに流下した投射材を回収ホースの通路の途中から分離タンク側へ向けて圧縮空気を噴出させて通路中に生じさせた部分的真空による吸引噴出作用によって行うようにしたエアブラスト装置を使用して、一次ショットピーニング処理と二次ショットピーニングとで異なる2種類のショット粒を入れ換えるか又は2台のショットピーニング装置を使用するようにしている。

・発明が解決しようとする課題

しかしながら、上記従来例にあっては、1台のショットピーニング装置で二段ショットピーニング処理を行うには、一次ショットピーニング処理から二次ショットピーニング処理に、二次ショットピーニングから一次ショットピーニングに切換える際に、両処理で使用するショット粒の粒度が異なることから、前処理で使用したショット粒を全て入れ換える必要があり、この入れ換え作業に長い時間と労力が必要となると共に、全てのショット粒を入れ換えるのは困難であり、多少粒度の異なるショット粒が混入することは避けられないという未解決の課題がある。
 また、2台のショットピーニング装置を使用して、これらに夫々粒度の異なるショット粒を装填しておくことにより、一次ショットピーニング処理及び二次ショットピーニング処理を異なるショットピーニング装置で行うことも考えられるが、この場合には、2台のショットピーニング装置が必要となり、導入コスト及び保守点検コスト等が嵩むという未解決の課題がある。
 そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、1台のショットピーニング装置で2種類以上の投射材を使い分けて、2段以上の多段ショットピーニング処理を行うことができるショットピーニング方法及び装置を提供することを目的としている。

・課題を解決するための手段

上記目的を達成するために、熱処理後の材料表面に投射材を投射して圧縮残留応力を生じさせるショットピーニング方法において、同一チャンバー内で2種類以上の投射材を連続的に投射する工程と、投射されて混合された2種類以上の投射材を分離して循環再使用する工程とを備えたことを特徴としている。
 この発明では、同一チャンバー内で、最初に所定の投射材を使用して一次ショットピーニング処理を行った後に、連続して最初の投射材とは粒径及び/又は材質が異なる投射材を使用して二次ショットピーニング処理を行ったときに、回収過程で2種類の投射材が混合されることになるが、この回収工程で2種類以上の投射材を分離して回収することにより循環再使用が可能となる。
 また、熱処理後の材料表面に投射材を投射して圧縮残留応力を生じさせるショットピーニング方法において、同一チャンバー内で、中サイズの投射材を投射する第1ショットピーニング処理と、大サイズの投射材を投射する第2ショットピーニング処理と、小サイズの投射材を投射する第3ショットピーニング処理とを連続して行い、投射されて混合された2種類以上の投射材を分離して循環再使用するようにしたことを特徴とするショットピーニング方法。
 上記の発明では、第1ショットピーニング処理で表面を硬化させると共に、ある程度の深さまで圧縮残留応力を分布させた状態で大サイズの投射材を使用した第2ショットピーニング処理を行うことにより、表面粗さの低下を抑制しながら深い位置まで圧縮残留応力を分布させ、さらに小サイズの投射材を使用した第3ショットピーニング処理を行うことにより、表面粗さをより小さくする。


・発明の効果

以上説明したように最初の発明によれば、同一チャンバー内で、最初に所定の投射材を使用して一次ショットピーニング処理を行った後に、連続して最初の投射材とは粒径又は材質が異なる投射材を使用して二次ショットピーニング処理を行ったときに、回収過程で2種類の投射材が混合されることになるが、この回収工程で2種類以上の投射材を分離して回収することにより循環再使用が可能となり、複数段のショットピーニング処理を1台で連続して行うことができるという効果が得られる。
 また2番目の発明によれば、第1ショットピーニング処理で表面を硬化させると共に、ある程度の深さまで圧縮残留応力を分布させた状態で大サイズの投射材を使用した第2ショットピーニング処理を行うことにより、表面粗さの低下を抑制しながら深い位置まで圧縮残留応力を分布させ、さらに小サイズの投射材を使用した第3ショットピーニング処理を行うことにより、表面粗さをより小さくすることができ、被処理材料の材料強度を向上させることができるという効果が得られる。

5.コーティングについて

5−1:コーティングの作業順序

1)パワースイッチをONにして、ロータリーポンプのスイッチをONにする。

2)バルブを軸と平行に廻し、ガスチャンバー内を真空排気する。

(約5〜10分排気すると使用真空度以上に達する)

3)FLASHスイッチを押しながらH.V.コントロールツマミを5にする。

イオン化電流計を監視しながら8mAに合わせる。

4)FLASHスイッチを押しながら、H.V.コントロールツマミを6、7、〜10と徐徐に廻し、8mAに合わせる。

5)タイマーを数字方向に廻し、5分に合わせる。

6)バルブを軸と直角に廻し、チャンバーリークツマミをゆるめる。

7)トップカバーを開け、試料台ホルダーをガラスチャンバー内から取り出す。

 

その結果、約300Åの厚さの金メッキを施すことができる。

 

5−2:コーティングに関する特許

【発明の名称】塗料用硬化性組成物及び被塗物
【公開番号】特開平11−228903
【発明者】
【氏名】井上 正治、玉井 仁、松尾 陽一
【住所又は居所】神戸市灘区徳井町5丁目2−5−610

・従来の技術

従来、窯業系素材、鉄鋼等からなる建築物、建材等の産業製品等の表面を、例えば、フッ素樹脂塗料やアクリルウレタン塗料等で被覆することにより、建築物等の表面を保護すると同時に美的効果を付与してきた。
 しかし、近年、都市部を中心とする環境の悪化にともない、塗料を使用した塗膜に、より高い耐汚染性が要求されてきている。この要求に対処するため、基材樹脂として、反応性シリル基含有アクリル系共重合体を使用し、更にケイ素化合物及び/又はその加水分解縮合物を配合した塗料用硬化性組成物が既に開発されている(例えば、特開昭54−91546号公報等)。
 しかし、従来の溶剤系塗料では、トルエンやキシレンのような炭素数が8以下の芳香族系溶剤、酢酸エステルのようなエステル系溶剤、メチルエチルケトン(MEK)のようなケトン系溶剤等を多量に含むため、塗装時における臭気の発生を防止することが難しく、また、セルフリコート性にも問題があった。
 また、塗装時における臭気を抑える等のために、これらの溶剤を減量すると、樹脂の溶解性が不充分になる等の問題が発生した。そこで、最近では、これらの溶剤を使用しない水系塗料も多く用いられてきたが、寒冷地での塗装性等に問願を抱えている。
・発明が解決しようとする課題

本発明は、上記に鑑み、塗装時の環境への影響が小さく、しかも、得られた塗膜が、優れた耐候性、セルフリコート性、耐汚染性を有し、下塗り又は中塗用の塗料として使用し得るとともに、特に、外装用上塗り塗料に好適に使用し得る塗料用硬化性組成物及び被塗物を提供することを目的とするものである。

 

     解決手段

ビニル系共重合体鎖からなる主鎖の末端及び/又は側鎖の炭素原子に、加水分解性シリル基を1個以上有し、かつ、アルキル基のC数が8以上の(メタ)アクリル酸アルキルを2〜50モル%含む単量体の共重合であるビニル系共重合体100重量部、硬化触媒0.001〜10重量部、並びに、C数が6以上の飽和又は脂環式の炭化水素、C数が9以上の芳香族炭化水素から選択される1種以上の炭化水素系有機溶剤及びその他の有機溶剤からなり、炭化水素系有機溶剤が50重量%以上の混合有機溶剤10〜500重量部を含む塗料用硬化性組成物。

     発明の効果

第一、第二及び第三の本発明の上塗り塗料用硬化性組成物は、セルフリコート性に優れるとともに、形成される塗膜の外観性や付着性が良好で、かつ、耐候性、耐汚染性等の塗膜物性バランスに優れているものであるので、例えば、金属、セラミック、ガラス、セメント、窯業系成形物、プラスチック、木材、紙、繊維等からなる建築物、橋梁物、家電用品、産業機器等の下塗り、中塗り、又は、上塗り塗料等に使用することができ、特に、上塗り塗料用に好適に使用することができる。また、上記塗料用硬化性組成物を塗装した被塗物は、上記のごとき優れた特性を有する。

6:ほかに疲労強度を上げる方法は?

6−1:疲労強度向上に関する特許

(1)

【発明の名称】耐摩耗性及び疲労強度に優れた窒化鋼及び摺動部材
【公開番号】特開2001−303205(P2001−303205A)
【発明者】
【氏名】井上 茂夫、小貫
【住所又は居所】新潟県柏崎市北斗町1−37 株式会社リケン柏崎事業所内

・従来の技術

バネ、ピストンリンク、歯車などのように摺動性と耐疲労特性を同時に要求される部品は数多く存在する。この摺動性(耐スカッフ特性と耐摩耗特性を総称した特性)と耐疲労特性は一般には相反する性質である。摺動性を増すために硬度を増加させると、材料が脆化し一般には強度は低下する。疲労強度は引張り強度の約半分と言われているので、強度が下がれば疲労強度も低下する。このような矛盾を解決するために現在行なわれている方法が窒化処理を利用する方法である。即ち、窒化鋼で製品を作り、窒化処理を行って摺動部材を製造する。窒化鋼は窒化処理を前提として使用される鋼であり、窒化処理後には表面硬度が母材に比べて著しく増加する。これにより、耐摩耗性や焼付き性等の摺動特性が向上する。また同時に、表面に発生する大きな残留圧縮応力により疲労強度は窒化しないときに比較して大きく改善することになる。これに更にショットピーニングや浸炭処理を施すことにより更に大きな残留圧縮応力が発生し高疲労強度の部材として使用することが行なわれてきている。
 従来窒化鋼としては、Al,Crを添加した低合金特殊鋼の他にマルテンサイト系13Crステンレス鋼に窒化することも知られている。


・発明が解決しようとする課題

しかし、従来、どのような窒化層組織であれば疲労強度が高まるかと言う議論は、ほどんどなされていなかった。もし、窒化処理のみで疲労強度が足りない場合は、通常は窒化鋼の疲労強度を上げるために、窒化処理後のショットピーニングや浸炭処理を施すことで要求に対応してきたと言える。しかし、この方法は工程が増えるためにコスト高になると言う問題があった。そこで、本発明においては、窒化処理後のショットピーニングや浸炭処理等を行わなくても要求される疲労強度を満足できるような窒化処理層が形成できる鋼材を開発することを課題とした。


・課題を解決するための手段

本発明の第一は、母材を、質量%でC:0.5%−1.0%、Si:1.0%以下、Mn:0.3−1.0%、Cr:5.0−12.0%、Mo:0.5−2.0%、V:0.1−0.3%、残部Fe及び不可避的不純物よりなることを特徴とする窒化鋼であり、本発明の第二は第一の発明の鋼材を母材に、表面に窒化処理又は軟窒化処理を行った摺動部材であり、本発明の第三は、窒化処理層の結晶粒界内に分散した、主として炭窒化物からなる析出相の粒径が10μm未満であり、かつ1μm以上10μm未満の粒径を持つ析出相が面積率で5%以下であり、かつ、化合物層が結晶粒界に均一に析出した摺動部材である。以下本発明の特徴を詳しく説明する。
 本願第一の発明の窒化用鋼材を使用すると窒化層の破壊靭性は大きくなり、結果として高い疲労強度をもつ窒化部材を得ることができる。以下、各成分の限定理由を説明する。
 Crは一部が鉄の格子に置換型の固溶体として固溶し窒化を促進する働きをする。また、他の一部はCと反応してCr炭化物が形成されている。窒化処理又は軟窒化処理後は窒化層内に微細なCr炭窒化物を形成しているので、窒化層内の基地は硬度が程良く上昇している。従って、窒化部材の内部で発生した亀裂が窒化層内を進展するとき、Crが5%以下の場合や窒化されていない場合に比べ、窒化層基地は、詳しくは後述のように、亀裂進展に対して大きな抵抗となる。結果として疲労強度を上昇させることができる。また、Crが12.0%以上であると、窒化後にCr炭化物のほとんどが炭窒化物に変化し、窒化層中に粗大な炭窒化物もしくは微細炭窒化物の凝集組織が形成され易くなり、疲労強度を劣化させるので、Crの量は12.0%以下とした。好ましいCr量は7〜11%である。また、窒化層の形成が予定される表面領域におけるCr炭化物の大きさは10μm以下であり、また1〜10μmのCr炭化物の面積率は5%以下であることが好ましい。かかる微細炭化物組織をもつ窒化鋼は、鋳造時の冷却速度を高くしたりすることにより得ることができる。
 Cは一部が基地に固溶して硬度を上げ、また、他の一部はCrその他の炭化物形成元素と反応して炭化物を作り耐摩耗性を与える元素であるため0.5%以上は必要である。しかし、1.0%以上になると炭化物の粗大化傾向が強くなるし、窒化を阻害する。更に重要なことは冷間加工性が極端に悪くなる。以上の理由から0.5%以上1.0%以下とする。
 Siは脱酸剤として添加され、またFe基地中に固溶して熱へたり性を上げるのである程度は含まれていて良いが、1.0%を越えると脆化して加工性が悪化するので、1.0%以下とする。
 MnもSiと同様に脱酸剤として添加されるので0.3%以上は必要であるが1.0%以上であると耐酸化性が劣化して、熱間、冷間加工性が劣化するので0.3%以上1.0%以下とする。
 Moは窒化処理の際の焼戻し軟化を防止するために0.5%以上は必要である。また、この他にも炭化物を微細化して硬度を上げる耐摩耗性を上げる効果がある。しかし、2.0%以上添加すると炭化物形成傾向が強い元素であるので炭化物が粗大化して疲労強度の高い組織を形成できなくなる。以上の理由から0.5%以上2.0%以下とする。
 Vは微量で窒化層の硬度を著しく上げる元素であるが0.1%未満ではその効果が無く0.3%以上になると炭化物を粒界に形成し靭性を低下させるので、0.1%以上0.3%以下とする。
 本発明の第二に係る摺動部材は、少なくとも外周摺動面に好ましくは5〜200μmの厚さの窒化処理層もしくは軟窒化処理層を形成したことを特徴とするものである。
 次に、本発明の第三においては、窒化層中に形成される析出相の大きさを制御する。窒化相基地の結晶粒内に分散する析出相は主として炭窒化物からなる。本発明においては、このような析出相の大きさを10μm未満とし、窒化層自身の摺動特性を向上させている。更に、1μm以上10μm以下の析出相が面積率で5%未満とすることにより、相互に凝集した炭窒化物などの形成を抑えている。更に、窒化処理又は軟窒化処理により結晶粒界化合物層が窒化層内の結晶粒界に均一に析出する組織とした。結晶粒界化合物層は母材内部に存在していたCr炭化物が窒化によりCr炭窒化物に変化するために余剰となった炭素が結晶粒界に押し出され、そこでFe、Nと化合物を形成したものであり非常に硬い金属間化合物である。この結晶粒界化合物は上記の理由により、窒化層中で三次元的に繋がっていることになるから、非金属介在物から発生した亀裂が進展するには、この結晶粒界化合物を貫通しなければならない。即ち結晶粒界化合物層が窒化層内の結晶粒界に均一に析出する組織とすることにより、亀裂の進展を阻止する働きをすることになり、その結果、疲労強度の高い部材とすることができるのである。前記した炭窒化物等以外の基地組織は、マルテンサイト、炭化物、Crを固溶したフェライトなどである。
本発明の窒化用鋼に適用される窒化法は、ガス窒化、軟窒化、塩浴窒化などの各種方法である。


・作用

窒化鋼の疲労破壊のプロセスを説明する。窒化鋼を窒化すると表面に残留圧縮応力が発生する。これに外部からの応力が加えられると、外部応力は表面で最大であり内部に行くに従って減衰する。結果として、窒化鋼に発生する実応力は圧縮残留応力と外部応力をベクトル的に重ね合わせたものとなる。実際の最大応力部が試料表面ではなくて表面から少し内部に入ったところになる。つまり、窒化鋼における疲労破壊の開始部分は表面ではなく少し内部に入ったところから疲労破壊は始まり、そして、破壊の起源は非金属介在物であることが一般的に言われている。疲労により亀裂が発生した後この亀裂は2つの方向に分かれて進行する。一つは内部方向に進行し、もう一つは表面方向に進展する。この時、内部は窒化されていないので、破壊靭性は十分に大きいが、表面部は窒化層であるので脆性材料であり、破壊靭性は非常に小さく、従って亀裂は表面窒化層を容易に進展する。つまり、亀裂を進展させるエネルギーは窒化層自身の破壊靭性値で決まることになる。亀裂が表面に達してしまえば圧縮残留応力の効果も消滅するし、亀裂も長くなっているので切り欠き効果により内部に向かって亀裂は進行し、それ以後は加速度的に亀裂進展速度が上昇し疲労破壊に至る。つまり、疲労強度を向上させる窒化鋼を開発するためには、内部で発生した亀裂が窒化層を進展するとき亀裂進展を妨げるような窒化層組織にする必要がある。このためには上述のように、鋼材の組成、特にCr,Cを調整することが重要である。次に実施例に基づき詳細に述べる。

     発明の効果

本発明による窒化鋼は高い摺動特性と疲労強度を同時に満足しているので、この二つの特性が同時に要求される、自動車用バネ、ピストンリング、耐摩耗部品等に極めて有用である。

(2)

【発明の名称】疲労強度に優れた高強度合金材とその製造方法
【公開番号】特開2001−115237(P2001−115237A)
【発明者】
【氏名】梅澤 修、長井 寿
【住所又は居所】茨城県つくば市千現1丁目2番1号 科学技術庁金属材料技術研究所内

・従来の技術とその課題

通常、固溶強化又は析出強化は静的強度の増大と共に疲労強度の向上にも寄与する。しかしながら、高強度合金材では、内部に発生する粒界割れ等の疲労き裂により長寿命側で疲労強度乃至は疲労限が低下する。ここで、長寿命側での疲労強度とは、繰り返し数が106回以上の疲労強度を意味し、疲労限は、通常107回の疲労強度を意味する。
 例えば、窒素強化オーステナイト鋼の低温高サイクル疲労破壊では、一般に、繰り返し最大応力が0.2%耐力以下の低応力側で、粒界割れ等の疲労き裂が試験片内部から発生することが知られている。また、チタン合金については、室温以上の温度域において、窒素強化オーステナイト鋼と同様の内部疲労き裂が顕在化する。これは、α型、αβ型、そしてまたβ型の違いに関係なく見られる。
 このような内部疲労き裂の発生に起因する疲労破壊は、長寿命側での疲労強度の低下をもたらす。疲労限は、静的強度又は硬度の上昇に比例して高まると一般に考えられているが、内部疲労き裂が生じる高強度合金材では、高強度化に見合う長寿命側での疲労強度の上昇が得られず、むしろ低下するという傾向が見られる。機械構造部材の高強度化及び長寿命化を図るには、疲労強度又は疲労限の向上が必要条件となる。
 ところで、内部き裂の発生点は金属組織に依存している。従って、疲労強度又は疲労限の向上には、き裂伝播(ステージII)に至る臨界の大きさにステージIき裂が形成されにくいような条件を金属組織に与えることがキーとなる。
 しかしながら、結晶微細化強化は疲労強度向上への寄与が小さいとされている。すなわち、き裂発生抵抗は高めるものの、き裂伝播抵抗を低めるとの一般的な認識がある。また、冷間圧延等による転位強化については、静的強度を増大させるものの、疲労強度向上への寄与は小さいとされている。
 この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、長寿命側での疲労強度が向上した疲労強度に優れた高強度合金材とこれを実現し得る製造方法を提供することを目的としている。


・課題を解決するための手段

この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、固溶強化又は析出強化された高強度合金材の金属組織母相に、再結晶粒と可動転位を有する回復粒とからなる微細な混粒組織が形成され、隣接結晶の方位がランダム化されていることを特徴とする疲労強度に優れた高強度合金材を提供する。
 この出願の発明は、前記発明に関し、第2には、高強度合金材は窒素強化オーステナイト鋼からなることを好ましい態様として提供する。
 また、この出願の発明は、第3には、固溶強化又は析出強化された高強度合金材を多軸・多パス冷間加工し、転位を導入すると共に、隣接結晶の方位をランダム化させ、次いで熱処理を行い、再結晶粒と可動転位を有する回復粒とからなる微細な混粒組織を形成させることを特徴とする疲労強度に優れた高強度合金材の製造方法を提供する。
 そして、この出願の発明は、第4には、高強度合金材は溶体化熱処理により固溶強化されていること、並びに、第5には、高強度合金材は窒素強化オーステナイト鋼からなることをそれぞれ好ましい態様として提供する。
 以下、実施例を示しつつ、この出願の発明の疲労強度に優れた高強度合金材とその製造方法についてさらに詳しく説明する。


・発明の効果

以上詳しく説明した通り、この出願の発明によって、静的強度のみならず、長寿命側での疲労強度又は疲労限にも優れた高強度合金材が提供される。高強度並びに高疲労強度が要求される低温・極低温機器の構造部材、機械構造用部材等への適用が見込まれる。